2010年2月16日火曜日

頑張れ!日本酒業界

現存する日本最初の民間の酒造りに関する技術書である、御酒之日記という書物には、段仕込み、諸白造り、火入れなどの技法が紹介されているようです。この書物の成立には、1355年だという説と、1489年だという説があります(現在は、後者の方が有力らしいのですが)。

ということは、この書物によれば、今から優に500年以上も前から、段仕込み、精米、低温殺菌などの、現在の清酒製造で用いられている技法が活用されていたことが判るのです。だから、現在行われている日本酒製法の技術は、500年以上の歴史を持っていると言ってもよさそうです。

私は、日本酒は、我々日本人にとっての大きな誇りだと思うのと同時に、この伝統や技術を後世に伝えて行くことは、日本人の義務であるとも思います。

ところが残念なことに、現在の日本酒業界に、元気がありません。年々、清酒出荷量が減っています。日本では、人々はビールや焼酎、あるいはウィスキーなどよく飲むようになり、若者たちは、サワーなどを多く好んで飲んでいるみたいです。ハイボールなんかも最近は流行っていますね。そして、日本酒を飲む人は、減って来ています。

国税庁の統計をみると、清酒の消費数量は、20年前の1990年は、およそ137万キロリットル、10年前の2000年は、およそ98万キロリットルでした。そして、日本酒造組合中央会の発表によれば、昨年の日本酒出荷量は、およそ63万キロリットルなのだそうです。

さて、日本酒の消費量の低迷の原因はどこにあるのでしょうか?私としては、次の3点を考えています。

1.アルコール飲料の多様な選択肢
2.日本酒に親しむ機会の減少
3.日本酒業界の宣伝活動・拡販努力の不足

清酒は、ビールとともに1974年頃までは消費が伸びていましたが、その後は、ビールが順調に伸びて行くのとは対照的に、清酒の消費は減少に転じます。そして、1984年頃から焼酎の消費が伸びてきています。

以前は日本酒とビールが市場の多くを占めていたところに、焼酎が日本人のアルコール飲料の選択肢の一つとして加わり定着したと言えます。消費者のアルコール飲料の選択の幅が広がったことになるので、なかなか以前のような市場シェアを回復することは、ビールにせよ、日本酒にせよ難しくなったに違いないのでしょう。

また、日本では、日本酒に親しむ機会自体が減少しているようにも思えます。祭礼、神事などでは、かつて日本酒が重要な役割を果たし、また、日本の伝統的習慣に則った結婚式や葬式、法事などでも、それに付随する集まりなどにおいては、日本酒が普通に飲まれてきたのですが、最近では、価値観の多様化により、伝統が軽視され、飲酒を伴うこのような行事を行うこと自体が減少してきたように思います。そして、会社では世代の異なる上司と部下が、酒席でともに盃を傾けるという場面も最近ではあまりないようです。その結果、若い世代に「日本酒の楽しみ方」が伝わりにくくなっています。20代の若者には、日本酒を飲んだことすらない人もいるほどです。

さらに、日本酒業界の宣伝活動・拡販努力の不足も、日本酒消費の低調の要因でしょう。多くの酒造場は、従業員が数人から数十人程度の小規模な経営です。そのため、宣伝力や技術開発力などの点で、他の酒類製造業界に差をつけられています。たとえば、最大手と目される酒造会社のウェブサイトでは、次のような情報が見つかります。

大関株式会社
資本金:8億2875万円
従業員:477人

月桂冠株式会社
資本金:4億9,680万円
従業員:549人

これに比べて、ビール、ウィスキー、その他いろいろ造って売っているサントリーで、同様の情報を探すと、次のようでした。

サントリーホールディング株式会社
資本金:700億円
従業員:21,845人(サントリーグループで)

単純に比較することの弊害もあるかもしれないが、日本酒の酒造業は、このウィスキーやビールの会社に比べるとずいぶん規模が小さいと言えます。資本金のレベルで2桁くらい違います。個々の酒造場の経営規模が小さいことで、製品のプロモーションにも支障が出る場合も多々あるに違いないと想像します。

しかし、単純に酒造場が大企業化すればいいという話でもなさそうです。過度の大企業化は、おそらく、現在全国にある酒造場の統廃合化をもたらし、各地の酒造場がそれぞれの風土に合った特徴のある酒を醸すという地酒の多様性が失われる恐れがあります。この辺りはなかなか難しい話なのでしょうが、酒造りの伝統や文化、そして地方の特色ある地酒を守りつつ、酒造業界が発展していくようになって欲しいものです。各酒造場や酒造組合には、今以上に協調的かつ継続的な努力が望まれます。

以上述べたように、日本酒の消費量の低迷の原因として、アルコール飲料の多様な選択肢、日本酒に親しむ機会の減少、日本酒業界の宣伝活動・拡販努力の不足の3点について、考えてみました。このうち、選択肢が多様化したという事実に対しては、これはある程度仕方のないことだと思いますが、日本酒を楽しむ機会が減少したことや、宣伝活動・拡販努力に関しては、まだまだ打つ手があるのではないかと思います。

私個人としては、もちろん今後も日本酒を飲み続けて行きたいと思います。と同時に、多くの人に日本酒の楽しみを伝えて行きたいと思ってもいます。

今回、このブログでは、珍しくちょっと堅苦しいテーマになってしまいましたが、現在その一部が海外で生産されてはいるものの、日本酒は、日本の酒なのであって、どこか他の国が日本にとって代わり、日本酒文化を守り育てていくなど考えられません。日本酒文化を育て守っていくのは、間違いなく我々日本人なのです。


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