9月9日、酒飲み仲間3人で豊島屋酒造株式会社を訪ねた。
ここは、清酒金婚や天上みりんの醸造元。この時季、そろそろ新酒の仕込みが始まる。これから酒蔵は忙しくなっていくようだ。そんな忙しい折、営業部の田中部長と石井杜氏が我々に応対してくれた。
この蔵の設立の歴史や、江戸の人々に白酒を売って人気があったという、創業400年以上の豊島屋本店(会社組織はここの酒造とは別組織)の話など、いろいろと興味深い話を聞かせていただいた。
その後、蔵の中を案内していただく。
まず仕込み水である。これは地下150mからくみ上げ濾過して使用している。石井杜氏によれば、濾過しなくても酒を造れるが、そのまま使うより濾過したら美味い酒が出来たので、濾過水を使っているのだそうだ。水の「強さ」をこの蔵の酒造りに適するように調整しているのかも知れない。
次に、釜場である。ここでは、洗米(精米した酒米を洗う)、浸漬(酒米が適量の水を吸収するように米に浸ける)、蒸キョウ(酒米を蒸す)、放冷(酒米を常温に冷ます)といった工程が行われる。それぞれの工程に使用される装置が並んでおり、どのように作動するのかなど解説をしてもらう。
(横型連続蒸米機)
酒米は、放冷後にホース状のパイプの中を風圧で吹き飛ばされるようにして、麹室(こうじむろ)や仕込みタンクに運ばれるのだと言う。
麹室も見学させていただく。ここは、酒米に麹菌を植えつけて増殖させ、米麹を作る場所である。麹菌が雑菌を嫌うので、麹室のエリアに入るには手を洗い履物を履き替える必要がある。さらに、エリア内に麹室が二重扉によって外界と完全に隔離されて設置されている。麹室に入る前に、再度両手を殺菌消毒して入る。
その麹室の中であるが、湿度が高く暖かい。というか暑い。台の上には引き込んだばかりだという米が平らに薄く広げられ、その上に白い布がかかっている。麹菌という不思議な微生物が、蒸米を米麹に変えていくプロセスが、まさにこの場で進んでいるのだ。一応、手を殺菌消毒して入ったのだが、麹菌様のお邪魔をしてはいかんと思い、なるべくそ~っと見学させたいただいた。
それから、仕込み蔵。大きなタンクが数十も並んでいる。田中部長は、早口ぎみの熱のこもった口調で、酒の仕込みについてあれこれ説明してくださる。質問すれば、何でも教えてくれて勉強になる。
その後、上槽した酒を貯蔵してある場所や、蔵内のあちこちを回った後、瓶詰め工程を行う場所に案内された。洗浄済みの空の酒瓶は、酒の充填機で酒が満たされ、キャップを付ける装置、ラベル貼付装置を通過して市販の酒となる。
こういった装置類のそばには、高さ1m20、直径1mくらのタンクがいくつか並んでいる。田中部長がタンクの上のビニールカバーの端をめくると、中には金色に輝く液体が湛えられている。「この独特の芳香は純米吟醸ですね」と田中部長が言いつつ、我々にも匂いを嗅がせてくれる。こんなに多量の液体すべてが純米吟醸なのか!しかしなんと綺麗に輝いているんだろう。
最後に、我々は屋守が保管されている冷蔵庫に案内していただく。そして、ここから蔵元さんもどんな味になっているかわからないという、15BY(15醸造年度)の屋守を持ちだし試飲することに。この試飲では、さらに十右衛門純米中取り原酒生や同火入れ品、屋守純米中取り無調整生、純米ひやおろしなど、旨い酒のオンパレードとなった。さらに、23年間瓶内で熟成させた貴醸酒までいただいた。この貴醸酒については「本日の酒」の項に記す。
屋守や十右衛門は、いずれも重厚であると同時に新鮮でさわやかな味である。杜氏さんの話によれば、麹歩合を高めにすると重厚感が出るらしい。また、ここの蔵の酒は、宮城酵母(どんな酵母なんだろ?)の特性がよく出ているということだ。
本日の酒
23年瓶貯蔵した貴醸酒(豊島屋酒造)
上述した貴醸酒であるが、これは他の酒を試飲中にたまたま私が貴醸酒について話題を振ったら、田中部長がありますよ。飲んでみますか?ってなことになり、23年熟成ものというすごい酒が出てきてびっくりした。
貴醸酒というのは、日本酒を仕込むときに仕込み水の代わりに日本酒を使うということらしい。三段仕込みの留めの段階のみで日本酒を使うこともあれば、全面的に日本酒で仕込むこともあるらしいが、この酒がどういう風に仕込まれたかまでは、聞いてこなかった。
一口すすってみる。旨い!うま~い!濃くてまろやかで、旨味がじわ~と口中に広がる。普通の清酒とは次元がまったく違う!酒で酒を仕込むという貴醸酒の造り方から、強烈な味を想像していたのだが、こんなにも深い味わいを醸しだすものかと関心した。
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