2008年9月27日土曜日

獅子舞と鹿島踊り

奥多摩湖、その湖上に長く突き出ている岬。車一台が通れる程度の道が、岬の先端に向かって延びている。右手に碧色のわずかに波うつ湖水を見ながらこの道を登る。先端に近づくに従い、道は岬の左側を巻き、崖の上から、桜その他の雑木越しに静けさを増した湖面が見下ろせるようになる。初秋の山の空気がすがすがしい。

もう少し歩くと社務所がある広場に出る。広場には数十人の観客がすでに場所取りをしている。右手の石段を、今し方登ってきたばかりの道を右側に見下ろしながら登るとすぐに小河内神社に着く。岬の一番高いところだ。

この神社は、奥多摩湖を堰きとめている小河内ダムが出来たとき、水没した集落のあちこちにあった神社を合祀したのだと言う。

本日9月14日は、この小河内神社のお祭りで、9時から獅子舞や踊りの奉納がある。これを見学しようと思って、我々は早朝から電車、バスを乗り継いでやって来ているのだ。

神社へ続く石段で待っていると、遠くからしっとりした空気の中を篠笛の音色が響いてきた。澄んだ高い音色に合わせて太鼓も聞こえる。眼下の道を目でたどるが、左に曲がって山陰に隠れてしまう。お囃子はだんだん近づいて来ているようで、そのうち山陰から獅子舞の一団が姿を現すに違いない。なんだか、とってもわくわくする。

やがて、祭りの半纏のようなものを羽織った先導者に続いてついに獅子舞の一団がやって来た。篠笛奏者たち、花笠を被ったささらすり数名、万燈、獅子頭を被った舞い手3名などが並んで行進し、子供がその周りを、行ったり来たりしながら付いて来る。

この獅子舞は、坂本地区の獅子舞で、この日は、他に川野地区、原地区の獅子舞も上演された。これらの獅子舞は、三匹獅子舞、ささら獅子舞などと呼ばれる形式のもの。各獅子舞は、腰に付けた太鼓を叩きながら舞う三人の一人立ち獅子と、花笠を被った数人のささらすりによって舞われる。そして、数人の篠笛による伴奏がつくというのもどこの獅子舞にも共通しているようだ。

獅子は、地域によって呼び方にバリエーションがあるが、大太夫、小太夫、女獅子があり、角や色で、それとなく見分けがつく。たとえば、大太夫の角はネジのように螺旋状のすじが入っており、女獅子には角が無いか角の代わりに宝珠を戴いている。

これら三匹の獅子が、いろいろな演目を舞うのであるが、各演目のストーリ自体は素朴で他愛もないものが多い。たとえば、竿懸かりなどと呼ばれる演目では、三匹の獅子が山の中を進むうちに倒木によって道をさえぎられ、向こう側に行けずに途方に暮れる。しかし、いろいろ頑張った末に三匹がめでたく通過出来て、そのあと皆で喜んで仲良く舞い遊ぶといった内容だ。実にほほえましいストーリではないか。



さて、三つの地区から来た獅子舞が終わると、次に鹿島踊りが奉納される。この芸能は6人の男性が女の着物を着て踊るもの。以前は、付近の集落の氏神である加茂神社の旧暦6月15日の祇園祭に披露されていて、祇園踊りと呼ばれていたらしい。

あでやかな衣装、金色の冠、気品と落ち着きのある踊り、味わいのある歌詞の唄にあわせて踊る風雅な踊り。こんな山奥にこのような素晴らしい芸能が伝わり、そして現存していることはまったく驚嘆に値する。

この鹿島踊りは、この日は五曲が披露されたが、どれも最後に呪文みたいなことを唱えて終わる。何と言っているのか、どういう意味なのかは不明だが、この様式で独特の神秘的な雰囲気がかもし出される。



本日の酒
本醸造 銀嶺立山(立山酒造)
8月に、北アルプス剱岳に登ったときに、山小屋で飲んだ酒。このときは、ワンカップ酒の冷酒だった。口当たりもよく飲みやすいが、しっかりとした味が感じられる。後味はたいへん辛口であるがさっぱりしている。最近、この酒を近所の酒屋で売られていたのを発見。最近は、これを買ってきて燗をして飲んでいる。燗をすると、悪くはないが、ややアルコール感が強くなるかも。

原料米:五百万石
精米歩合:70%
アルコール度:15.3%
日本酒度:(+)5.0
酸度:1.4

2008年9月13日土曜日

酒造訪問--豊島屋酒造

9月9日、酒飲み仲間3人で豊島屋酒造株式会社を訪ねた。



ここは、清酒金婚や天上みりんの醸造元。この時季、そろそろ新酒の仕込みが始まる。これから酒蔵は忙しくなっていくようだ。そんな忙しい折、営業部の田中部長と石井杜氏が我々に応対してくれた。

この蔵の設立の歴史や、江戸の人々に白酒を売って人気があったという、創業400年以上の豊島屋本店(会社組織はここの酒造とは別組織)の話など、いろいろと興味深い話を聞かせていただいた。

その後、蔵の中を案内していただく。

まず仕込み水である。これは地下150mからくみ上げ濾過して使用している。石井杜氏によれば、濾過しなくても酒を造れるが、そのまま使うより濾過したら美味い酒が出来たので、濾過水を使っているのだそうだ。水の「強さ」をこの蔵の酒造りに適するように調整しているのかも知れない。

次に、釜場である。ここでは、洗米(精米した酒米を洗う)、浸漬(酒米が適量の水を吸収するように米に浸ける)、蒸キョウ(酒米を蒸す)、放冷(酒米を常温に冷ます)といった工程が行われる。それぞれの工程に使用される装置が並んでおり、どのように作動するのかなど解説をしてもらう。


(横型連続蒸米機)

酒米は、放冷後にホース状のパイプの中を風圧で吹き飛ばされるようにして、麹室(こうじむろ)や仕込みタンクに運ばれるのだと言う。



麹室も見学させていただく。ここは、酒米に麹菌を植えつけて増殖させ、米麹を作る場所である。麹菌が雑菌を嫌うので、麹室のエリアに入るには手を洗い履物を履き替える必要がある。さらに、エリア内に麹室が二重扉によって外界と完全に隔離されて設置されている。麹室に入る前に、再度両手を殺菌消毒して入る。

その麹室の中であるが、湿度が高く暖かい。というか暑い。台の上には引き込んだばかりだという米が平らに薄く広げられ、その上に白い布がかかっている。麹菌という不思議な微生物が、蒸米を米麹に変えていくプロセスが、まさにこの場で進んでいるのだ。一応、手を殺菌消毒して入ったのだが、麹菌様のお邪魔をしてはいかんと思い、なるべくそ~っと見学させたいただいた。

それから、仕込み蔵。大きなタンクが数十も並んでいる。田中部長は、早口ぎみの熱のこもった口調で、酒の仕込みについてあれこれ説明してくださる。質問すれば、何でも教えてくれて勉強になる。



その後、上槽した酒を貯蔵してある場所や、蔵内のあちこちを回った後、瓶詰め工程を行う場所に案内された。洗浄済みの空の酒瓶は、酒の充填機で酒が満たされ、キャップを付ける装置、ラベル貼付装置を通過して市販の酒となる。

こういった装置類のそばには、高さ1m20、直径1mくらのタンクがいくつか並んでいる。田中部長がタンクの上のビニールカバーの端をめくると、中には金色に輝く液体が湛えられている。「この独特の芳香は純米吟醸ですね」と田中部長が言いつつ、我々にも匂いを嗅がせてくれる。こんなに多量の液体すべてが純米吟醸なのか!しかしなんと綺麗に輝いているんだろう。

最後に、我々は屋守が保管されている冷蔵庫に案内していただく。そして、ここから蔵元さんもどんな味になっているかわからないという、15BY(15醸造年度)の屋守を持ちだし試飲することに。この試飲では、さらに十右衛門純米中取り原酒生や同火入れ品、屋守純米中取り無調整生、純米ひやおろしなど、旨い酒のオンパレードとなった。さらに、23年間瓶内で熟成させた貴醸酒までいただいた。この貴醸酒については「本日の酒」の項に記す。



屋守や十右衛門は、いずれも重厚であると同時に新鮮でさわやかな味である。杜氏さんの話によれば、麹歩合を高めにすると重厚感が出るらしい。また、ここの蔵の酒は、宮城酵母(どんな酵母なんだろ?)の特性がよく出ているということだ。

本日の酒
23年瓶貯蔵した貴醸酒(豊島屋酒造)
上述した貴醸酒であるが、これは他の酒を試飲中にたまたま私が貴醸酒について話題を振ったら、田中部長がありますよ。飲んでみますか?ってなことになり、23年熟成ものというすごい酒が出てきてびっくりした。
貴醸酒というのは、日本酒を仕込むときに仕込み水の代わりに日本酒を使うということらしい。三段仕込みの留めの段階のみで日本酒を使うこともあれば、全面的に日本酒で仕込むこともあるらしいが、この酒がどういう風に仕込まれたかまでは、聞いてこなかった。
一口すすってみる。旨い!うま~い!濃くてまろやかで、旨味がじわ~と口中に広がる。普通の清酒とは次元がまったく違う!酒で酒を仕込むという貴醸酒の造り方から、強烈な味を想像していたのだが、こんなにも深い味わいを醸しだすものかと関心した。

2008年9月2日火曜日

利き猪口

利き猪口というのは、利き酒の時に使う磁器で、内側の底に白い磁器肌に藍色の蛇の目が描かれている。この蛇の目の藍色の部分で酒の透明度を確認し、白い部分で色合いを見る。



今年になってから、新潟県長岡市の酒蔵で取締役営業部長をしている方と知り合いになり、その後、2度ほどこの人の酒蔵を訪ねたことがある。当然、蔵の中で、いくつか酒を試飲させてもらうことになった。このときに、使わせてもらったのが利き猪口である。この利き猪口は1合くらい入りそうなもので、本格的な利き酒用のもののようだ。唇が触れる部分も薄く仕上がっており、酒を口に含みやすく出来ている。

ところで、昨日(2008年9月1日)は、富士山の五合目までドライブをして、その帰りに、圏央道のあきる野インターを降りた付近にある中村酒造に寄り道した。この造り酒屋では、千代鶴という東京の地酒を醸造しているが、敷地内に「酒造り資料館」という場所がある。資料館には、甑(こしき)、さな板、麹蓋、槽(ふね)、半切桶、壷代(つぼだい)、暖気樽(だきだる)といった、往時に酒造りに使用されていた道具類が展示されている。




一角には売店があり、この酒蔵で製造された酒の試飲もできる。残念ながら今回は車で来ているので、試飲はせず、その代わり土産に千代鶴の利き猪口を買ってきた。



これは、長岡の酒造で使わせてもらった利き猪口と比べると、重量感があり唇があたる縁の部分が明らかに分厚い。後で調べてわかったのだが、国税庁が鑑評会のきき酒用として公式に使用している「業務用」利き猪口は、縁が薄くて軽く出来ていて、器の底の蛇の目が釉薬の上に濃く描かれているらしい。私の買った利き猪口は「一般用」の利き猪口で、最初に蛇の目が描かれその上に釉薬がかかっている。

とはいえ、やはり大きな利き猪口で飲むと酒の味や香りがよくわかるような気がする。酒を口に含むとき、少し多めにすすり、同時に鼻が猪口の中に入る格好になるので、酒の香りもよくわかるというものだ。

本日の酒
朝日山 千寿盃(朝日酒造株式会社)
新潟と言えば淡麗な酒が多いが、これも淡麗な味わいの辛口本醸造である。ピリッとした爽快なキレがあり、今は夏なので冷やして飲んでいる。もう少し涼しければ燗でもよいかも知れない。
ところで、裏ラベルにの右下の方にあるNIIGATA・O・Cのマークは、Niigata Original Controlの略。醸造に使用する水質、原料米、技術などに関して一定の基準を設け、これらが満足したと認定される酒に対して、新潟清酒産地呼称協会が、このシンボルマークの使用を許可してる。
精米歩合:60%
アルコール度:15 - 16%